元賃貸業者が語る、訳あり物件の基準と経験談
こんにちは。終活と自分整理を応援する「自分図鑑合同会社」の吉田です。
私は11年間、不動産賃貸業の会社で働いていました。空き家に携わった期間も含めると、不動産関連事業に17年ほど関わっています。
最近、「孤独死」という言葉を良く耳にします。
孤独死のニュースを聞くと、普通の人は「孤独死した人はどんな生活をしていたんだろう」とか、「家族はいなかったのかな」など、亡くなった方の背景を考えると思います。
しかし、賃貸業界が長かった私は、ちょっと違います。
「このアパート、訳あり物件になるんだろうなぁ。所有者さん、これからしばらくは収入減りそうだな。たいへんだなぁ」と所有者さんの生活の心配をしてしまうんです。
前置きが長くなりましたが、今回は「訳あり物件」の基準のお話しと、私の賃貸業界時代の体験談をお話しします。
【 目次 】
●元賃貸業者が語る、訳あり物件の基準と経験談●
訳あり物件ってどういうもの?
みなさんがご存じの通り、訳あり物件とは、誰かが自殺や他殺等で亡くなった物件のことを言います。
「訳あり」というのは俗的な言い方で、法律的には「心理的瑕疵」と言います。
不動産業界では「事故物件」というのが一般的だと思います。
「心理的瑕疵物件」は、法律で「告知義務が発生する」と決められています。
ですので、自殺した部屋ということを明かさずに契約させられた場合、ただ単に不親切というわけではなく、業者は告知義務違反として罰せられることになります。
訳あり物件の基準とは?
訳あり物件の中には「自殺」「他殺」「孤独死」「事故死」など、いろいろあります。
この中で、絶対に告知義務が必要になるものは「自殺」と「他殺」です。
しかし、その他は明確な基準がなく、ケースバイケースとなります。
ケースバイケースの基準とは?
「自殺」「他殺」は部屋で亡くなったかどうか
自殺と他殺は、間違いなく「心理的瑕疵物件」、つまり訳あり物件として扱われ、告知義務が発生します。
でも、借りている部屋の外で起きた場合は、ケースバイケースで判断されます。
例えば、マンションの一室を借りていた人が、屋上から・・・という場合は、部屋の中で亡くなっていないのでケースバイケース。ということになるようです。
「自然死」の場合は?
孤独死や事故死などの自然死は、必ず「訳あり物件」になる訳ではありません。
私は賃貸業者で営業をしていた時、古い木造アパート(大阪では文化住宅という)の1階は、高齢者に大人気でした。
綺麗さや便利さを求めない高齢者にとっては、「安い」「広い」「段差が少ない」の文化住宅1階は、とても住みやすい物件だったのです。
ただ、人気の文化住宅でも、定期的に空きが出ていました。
部屋が空く理由の半分くらいは「入居者が亡くなったから」です。
病院で亡くなる人の方が多いですが、室内で亡くなる人も一定数おられました。
でも、リフォームして新規募集がかかると、すぐに次の入居者が決まっていました。
自然死で「訳あり物件」扱いになる基準は一概には言えませんが、
・亡くなってからの期間
・状態
が関係してくるみたいです。
亡くなってすぐに発見された場合は、告知せずに新規募集をしていることもあるようです。
しかし、期間が経ってから発見された場合は、告知することがほとんどです。
法律には、『このケースは心理的瑕疵とみなす』といういう明確なガイドラインはありません。
次に借りた人が「事実を知っていれば借りなかったのに!」となるかならないかが一番の基準のようです。
もちろん、最終的には裁判所の判断になりますが。
法的な告知義務が無くても告知することが多い
部屋を貸す業者としては、「法に違反していないからOK!」というわけにはいきません。
たとえ裁判で「告知する必要はなし」と認められたとしても、それ以上に怖いのが「風評被害」です。
悪い噂はビックリするほど早く広がるものです。
裁判に勝っても、「あの業者は悪徳業者」という噂が流れてしまったら、お客さんが激減してしまいます。
私の経験上の話ですが、「法的に告知義務が必要かどうか」が微妙な場合は、積極的に告知する会社が多いと思います。
1件の訴訟に勝つよりも、悪い評判が流れる方が大打撃になります。
なにより、告知した方が良心的な会社というイメージを持たれるので、微妙なケースの場合は告知することを選ぶ会社が多いように感じます。
告知しなくてよくなるタイミングはいつ?
では、どのタイミングで告知しなくてよくなるのでしょうか?
答えはケースバイケースです!
昔は「事故物件は一回入居者が入れば、その後は告知しなくても良くなる」と言われていました。私も賃貸業界に入ったときは、先輩からそう教えてもらいました。
ですので、1ヶ月だけ誰かに貸して、その後は何事もなかったように新規募集をするといったケースもあったようです。
しかし、実際はこの「一回入居者が入れば・・・」というのは通用しないようです。
ケースバイケースなので、「事故・事件の状況」「事故・事件が起きてからの期間」等を総合的に見て、裁判所が判断するようです。
私の体験談
ここからは、私が賃貸業界時代に実際に経験したお話をいくつか紹介します。
かなり昔の話になるので、今と基準が変わっているかもしれません。ご了承ください。
第一発見者となり・・・
私は賃貸業者に入って間もない頃、第一発見者になったことがあります。
私が第一発見者になった物件は、とても小さな3階建てマンションでした。
契約してくれたお客様の部屋に書類を投函するため、共用階段を上がりました。
すると、パンツ一丁の男性が2階の廊下で倒れていたのです。
投函する部屋は一番手前だったので、投函だけしてそのまま帰ろうと階段を下りたのですが、これはさすがにまずいなと思い、再び階段を上り、「おっちゃん!大丈夫?」と声を掛けてみました。
反応が無いので、足でツンツンしてみましたが、それでも反応はありません。
「これはもしや・・・」と思い顔を覗き込んでみると、瞳孔が開いていたので、静かに階段を降り、警察に連絡しました。
後日管理会社に聞いてみると、やはり亡くなっていたそうです。
その男性は3階の入居者で、部屋で発作が起き、苦しくて外に出ようとしたときに階段から転げ落ちて、そのまま息を引き取ったそうです。
その後、亡くなった男性の部屋を見に行きましたが、吐血の跡もあったので、苦しみながら階段から落ちたのだと思います。
で、その部屋はその後どうなったかというと、
リフォームされて普通に新規入居者募集されていました。
自然死+部屋で亡くなっていないので、告知義務はないと判断したんだと思います。
もう15年くらい前の話なので、今であれば告知しているかもしれませんが。
ちなみに、その部屋の次の入居者を決めたのは私です・・・
衝撃的な入居者募集FAXが・・・
賃貸のお店には、管理会社から毎日多くの入居者募集FAXが流れてきます。
その日は見たことのない管理会社から、入居者募集の資料がFAXされてきました。
見てみると、一番目立つところに「瑕疵物件、告知義務あり」と書かれていました。
そして、告知内容の詳細も生々しく書かれていました。
「◯月〇日、夫が寝ているところを、妻が包丁でメッタ刺しにし、殺害。この物件をお客様に紹介される場合は、この内容をご説明ください」
という衝撃的な内容でした。
私はこういうのは大の苦手です!怖くて物件確認すら行けませんでした。
しかし、相場の半額くらいで賃貸されたその部屋は、なんと1か月も経たないうちに入居者が決まってました。
世の中には全く気にしない人が、意外と多いようですね。
大手の対応はしっかりしている
これも15年ほど前の話ですが、大手ハウスメーカーが建てたマンションで転落死がありました。
このマンションに住んでいる住人だったらしく、4階の共用廊下から転落したそうです。
警察の見解は「自殺とは言い切れない」というものだったらしく、告知義務が発生する可能性も低いのではないかというものでした。
しかし、先ほども書いたように、大手ハウスメーカーは評判が大切です。
建ってまだ半年ほどの築浅物件だったので隠したくなるところですが、各仲介業者に「必ず告知してください」と連絡をされていました。
ハウスメーカーの努力もあってか、このマンションはその後も変な噂が流れることはありませんでした。
過去にどれくらいの訳あり物件に出会った?
11年間賃貸業界にいてましたが、告知義務のある訳あり物件に出会った回数は、10回程度です。
この数が同業他社と比べて多いのか少ないのかは分かりませんが、みなさんが思っているほど、訳あり物件は多くないように感じます。
ただ、ここ数年は孤独死が増えているので、告知の必要な訳あり物件は増えているかもしれません。
今回は、少し生々しいお話しで失礼しました。
以上が「訳あり物件の基準とは?」というお話しでした。
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